友人が海の見える高台に別荘を買ったから見に来てというので、週末、電車を乗り継いで、おじゃましました。友人に教えられた乗降駅を聞くと、ずーっと昔、たしか小学生の頃、遠足で行ったことがあるような……、岬を望む公園だったのですが、さて、特急電車の車窓から見える景色にどこか懐かしさを覚えながら、電車に揺られて1時間半。やがて辿り着いた駅には、プーんと潮の薫りが漂う、まさに別荘地に相応しい土地柄でありました。
友人の別荘は、駅からも徒歩圏内にある高台の住宅地にある庭付きの戸建て。大阪のオフィス街まで特急電車1本で通えるため、数十年前に山を切り開き造成され家が建てられ、新たな住人を受け入れてきた場所になります。バブル期には激しく高騰した地域でもあったそうですが、近年では、坂を上り下りするのが辛くなった高齢者の住民たちが一人抜け、二人抜け、結果、ポツリポツリと家の空き家化が始まっているとか。そこで登場したのが友人のようなマリンスポーツや海が大好き人間たち、というわけです。彼らが新たな住人となり、徐々に世代交代が始まっている、そんな情況を抱えている地域です。
これまで庭仕事などトンと縁がなかったと言う友人は、その日、ホームセンターから買ってきたばかりの枝切り鋏を手に、野方図に伸び切ってしまった植木の頭を丸くカットしながら、「まさか、自分が植木の手入れをする生活を送るなんて考えてもいなかった」なんてぽつり。チョキンチョキンと作業が続くその傍らで、そうだよね、私だって、アメリカで芝を刈ったり、球根を植えたりなんて、考えられなかったよ、と激しく同意してしまいました。庭の片隅にふと目をやると、ブラックベリーが自生しているではないですか。友人と二人、その実を口に含みながら、“ああ、いい暮らしだよねぇ”とつくづく羨ましくなりました。
というのも、別の日。京都に住む友人カップルと四条河原町で落ち合って、ディナーを共にしたのですが、そこがまた半年前から予約が詰まっているという創作割烹のお料理屋。高級食材を憎らしほど小粋にアレンジして、小さな器にいくつも並べられてコース別に供されてきます。箸付、前菜、お椀、向付、箸休めに八寸、デザートまで延々と。目の前でお料理する若き店主も副料理長も、おしゃべりが軽妙で、お客をあきさせません。先斗町に近いということもあるのでしょう、白粉を落とした芸妓さんたちがプライベートで食事をしていたり。もてなしを受ける側も提供する側も皆が和気あいあいとしながら、店内は熱気で溢れていました。その時、ホントに心の底から、日本の暮らしはいいなあと感じ入ったのです。もちろん、お料理が美味しいというのもありました。それもありますが、なんというのか、日本は日本なりのQuality of Lifeが高いというのが正直な感想です。友人に、こんな美味しいもの、よく食べてるの? と訊くと、「ここは京都だからね」との返答。恐れ入ります。
お料理屋は、今年、パリの右岸モンマルトルにも出店するそうです。京都か、パリか、いずれかを機会のある方はどうぞ、お試しください。京の店は見事に予約オンリーのお客に占められていますが、パリはまだチャンスがあるかもしれません。ホームページを挙げておきますので、よろしければご覧ください。京料理は京料理でも、かなりパンク度高いお料理屋さんです。お料理を運んでくれるお兄さんのヘアスタイルは別の日はモヒカンだったそうですが、私たちが訪れた日は、「ニモ」(そう、あのディズニー映画の)でした。
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